大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(ワ)18900号 判決

原告

奈良谷永三郎

外二名

原告ら訴訟代理人弁護士

畑敬

山田洋一

右畑敬訴訟復代理人弁護士

植松勉

野口耕治

被告

メイフラワーサッポロ株式会社

右代表者代表取締役

羽根田知也

右訴訟代理人弁護士

河合弘之

西村國彦

千原曜

右河合弘之訴訟復代理人弁護士

松村昌人

右西村國彦訴訟復代理人弁護士

松尾慎祐

主文

一  被告は、原告奈良谷永三郎に対し、金一八〇〇万円及びこれに対する平成八年五月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告有限会社奈良谷工務店に対し、金一八〇〇万円及びこれに対する平成八年五月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告永栄産業株式会社に対し、金一八〇〇万円及びこれに対する平成八年五月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、原告らの勝訴部分につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

(原告ら)

附帯請求の起算日が平成六年一〇月一五日であることを除き主文と同旨

(被告)

原告らの請求棄却の答弁のほか、本案前の答弁として、原告奈良谷永三郎及び原告永栄産業株式会社の訴え却下を求めた。

第二  事案の概要

本件は、原告らが、被告との間で締結したメイフラワーゴルフクラブ札幌(以下「本件ゴルフ場」という。)の個人ないし法人正会員になる旨の入会契約(以下「本件入会契約」という。)を右ゴルフ場の開場遅延を理由とした解除に基づく原状回復請求として、契約時に支払った入会金及び会員資格預り保証金(以下「預託金」という。)の返還を被告に対し請求する事案である。

一  争いのない事実及び前提事実

1  被告は、ゴルフ場の経営等を目的とする株式会社である(争いのない事実)。

2  原告らは、それぞれ、平成二年七月一一日、被告との間で、被告の経営にかかる本件ゴルフ場の入会契約を締結し、原告奈良谷永三郎(以下「原告奈良谷」という。)は個人正会員として、原告永栄産業株式会社(以下「原告永栄産業」という。)及び原告有限会社奈良谷工務店(以下「原告奈良谷工務店」という。)は法人正会員として、本件ゴルフ場の会員となった。原告らは、被告に対し、本件入会契約締結に際して、それぞれ、入会金として金二七〇万円、預託金として金一五三〇万円を支払った(争いのない事実)。

3  原告奈良谷及び原告永栄産業は、本件入会契約締結に際して、預託金の支払のため、それぞれ金一五三〇万円を株式会社第一勧業銀行(以下「第一勧銀」という。)から借り受けた(以下「本件借入れ」という。争いのない事実)。被告は、同じころ、第一勧銀に対し、原告奈良谷及び原告永栄産業の第一勧銀に対する右の債務について原告奈良谷及び原告永栄産業と連帯して保証した(乙第三四号証一、二、乙第三五号証一、二)。

4  原告奈良谷及び原告永栄産業は、本件借入れに関し、被告に対して、本件ゴルフ場の会員資格預り保証金証書(以下「本件証書」という。)を差し入れた(争いのない事実)。

5  本件ゴルフ場の会員募集に際して被告が作成したパンフレット等には、本件ゴルフ場のコースは二七ホール(甲第四号証の二)、完成時期については、「平成四年夏(予定)」との記載がされていた(争いのない事実)。

6  本件ゴルフ場は、平成四年夏の経過時においては完成せず(争いのない事実)、現在においても、一九ホールはほぼ完成したものの(甲第四号証の一、乙第四一、五一号証、証人大原和裕の証言)、二七ホールすべては完成してはいない(争いのない事実)。

7  原告奈良谷及び原告永栄産業は、第一勧銀に対し、本件借入金債務につき、平成六年六月分以降の分割金の弁済をしていない(争いのない事実)。

8  原告らは、被告に対して、平成六年七月二八日、一か月以内に本件ゴルフ場を開場するよう催告し、本訴状により本件入会契約を解除する旨の意思表示をし(争いのない事実)、平成六年一〇月一四日、本訴状は被告に送達された(裁判所に顕著な事実)。

二  争点

1  本件入会契約における被告の債務不履行(解除事由)の有無

2  原告奈良谷及び原告永栄産業の本件入会契約に基づくゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)についての被告に対する譲渡担保権設定の有無

3  原告らの解除の効力

4  原告奈良谷及び原告永栄産業の当事者適格について

第三  争点に対する判断

一  本件入会契約における被告の債務不履行(解除事由)の有無

1  本件入会契約における被告の債務の履行期について

(一) 原告らは、被告が作成した本件ゴルフ場の会員募集用パンフレット(以下「パンフレット」という。)中には、コース完成予定として「平成四年夏」との記載がなされていたことから、本件ゴルフ場が平成四年夏に開場するということは、本件入会契約の契約内容となっている旨主張し、被告は、ゴルフ場の開場が何時になるかという確実な見通しを立てることは非常に困難であるから、建設の計画段階及び建設中に示されるゴルフ場の完成ないしは開場の予定時期についての見通しは、あくまでも一応の予定ないしは努力目標にすぎず、ゴルフ場入会契約の内容を構成するものではない旨主張する。

(二)  本件入会契約においては、前記争いのない事実のとおり、本件ゴルフ場のパンフレットにコース完成として「平成四年夏(予定)」の記載がされている程度で、弁論の全趣旨によれば、右パンフレットの他に造営工事完了時期ないしは開場時期について明示する書面等は存しない上、具体的に履行期が記載された契約書等は作成されていないことが認められる。したがって、本件入会契約締結当時は、本件ゴルフ場は、平成四年夏にはコースは完成し、ゴルフ場として開場されることが予定されていたと認められる。

しかしながら、一般にゴルフ場建設工事は、行政上の許認可、指導等のため予定外の期間を要したり、自然的要因などによって建設工事に予定以上の期間を要することは珍しくなく、当初の予定期間内に建設工事が完成しないことはあり得ることは十分に予想されるから、入会契約の履行期としては、当初開場予定時以後であって、右契約後のゴルフ場建設の工事の進ちょく状況並びに当時の社会経済状況に照らして、右工事の遅延に関して予想される合理的な遅延期間が経過したときというかなり幅のある弾力的なものであるとみるのが相当である。

したがって、本件入会契約においても、将来開場されることを見込んで締結されたものであるから、右契約における被告の履行期は、早くて平成四年夏以後で平成四年夏から合理的期間内という不確定期限であると解せられる。したがって、原告らが主張するように、本件入会契約における被告の本件ゴルフ場の開場義務の履行期が平成四年夏の確定期限であったとはいえないものの、右ゴルフ場建設の諸事情にかんがみ、平成四年夏から合理的期間である期限に本件ゴルフ場を開場するべき義務が本件入会契約の契約内容となっているものと認められる。

2  本件ゴルフ場の開場についての被告の債務不履行としての履行遅滞の有無について

(一) 本件ゴルフ場の開場遅延について、被告に債務不履行があるか否かについて、原告らは、本件ゴルフ場は、被告が示した開場予定時期である平成四年夏から五年以上経過した本件口頭弁論の終結時においても正式開場するに至っておらず、被告は履行遅滞の責を負う旨主張する。これに対し、被告は、本件ゴルフ場の二七ホールの開場は当初の予定時期よりも遅延していることは原告の主張する通りであるが、既に平成七年六月にノースコースと呼ばれる九ホールにつき工事が終了し、同年七月二二日から右ノースコースを使用して、会員にゴルフコースや工事の進ちょく状況等を視察させる視察プレーを行い、同年一〇月にはウエストコースと呼ばれる九コースにつき工事が終了し、本件の口頭弁論終結時においては、全二七ホール中一九コースが完成し、ノースコース及びウエストコースのプレーが行われているほか、右開場が遅延している間、被告は、本件ゴルフ場の会員に対して、隣接するゴルフ場や栃木県内の被告系列のゴルフ場の利用について便宜を図るなどの代替措置を講じているから、債務の本旨に従った履行の提供と評価し得るから被告には債務不履行はない上、履行遅滞に該当する外形的事実の存在が認められるとしても、それは、被告が契約締結時に予見することができなかった不可抗力によるものであるから被告は債務不履行の責は負わない旨主張する。

(二) 被告に債務不履行があるか否かは、前記1のとおり、本来の開場予定時期から諸事情に照らして、右工事の遅延に関して予想される合理的な遅延期間が経過したか否かによるものと解せられる。

そこで、本件ゴルフ場について、遅延に関しての諸事情を検討する。

甲第四号証の二、乙第三号証の一ないし三、乙第一七ないし一九、二七、二八号証、乙第三〇号証の一ないし九、二〇ないし二三、乙第三七、五二号証、証人萩原隆及び大原和浩の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件ゴルフ場においては、平成元年一二月一六日、都市計画法及び森林法に基づく開発許可を得て、平成二年三月末ころ、工事の着手届けを担当行政庁に提出した。

(2) ゴルフ場の造成工事には、ゴルフ場建設予定地内でなされるものにはコース工事及び防災工事があるところ、右両工事は技術的に同時に行うことが可能であり、また、同時になされるのが一般的であったので、被告及び施工業者は、本件ゴルフ場の建設工事開始前は、これらを同時に行う予定であったので、少なくとも、本件ゴルフ場における防災工事については、平成二年中に終わらせる予定であった。ところが、平成二年五月ころ、北海道から本件ゴルフ場建設工事の施工業者に対して、防災工事を行って完成検査を受けなければコース工事に着手してはならない旨の指導がなされた。右のような指導は、北海道において、本件ゴルフ場の建設工事の開始と前後して行われるようになったものである。右指導を受けて、被告は、工事の一年以上の遅れは認識していた。さらに、後述の河川認定の関係で、防災工事に着手できたのは平成二年七月ころとなった。そして、平成三年六月まで防災工事に要し、平成三年一二月の変更設計の許可後、ようやく本工事に着手することができた。

(3) また、平成二年三月末ころ前記工事の着手届けを担当行政庁に提出した段階で、本件ゴルフ場開発予定地内の水路が北海道普通河川及び堤防敷地条例に基づく河川に認定される旨指導を受けていたところ、平成二年六月二五日、右条例に基づいて、本件ゴルフ場開発予定地内の四カ所の小さな水路が普通河川と認定され、右河川周辺の開発に規制が加えられた。一般的に、河川の認定は、開発許可の際に検討され、既に工事着手を目前にした段階でされることは稀であった上、右河川は水路程度のもので従前北海道においてはかならずしも逐一河川と認定がされてはいなかった。本件ゴルフ場のコース内ないしコース隣接箇所に存在した水路等が河川として認定されたため、コースレイアウトの変更などを行うこととなり、平成三年七月に提出した変更後の設計について北海道知事の許可を得たのは平成三年一二月一六日であった。

(4) 被告ゴルフ場についての許認可に際しても各ホール間等の森林を残すことの指導はあったが、右許認可後の平成二年五月に林野庁から森林の開発行為の許可基準を従前に比して格段に厳格にすべき旨の通達がなされた。右通達をうけて、森林法第一〇条の二に基づく森林開発行為の許可基準運用細則が改正され、これに伴い、平成二年六月二〇日ころ、ゴルフ場内の河川認定されない沢について沢埋めをしないこと等が要求された。

(5) そのほか、北海道は、雪のため四月下旬ないし五月の連休明けから一一月中旬ないし下旬までしか工事ができない。

さらには、平成六年の天候不順による芝生の活着ができなかったため、芝貼り不能のまま越冬し、平成七年中に九ホールの芝貼りが完了し、一八ホールのゴルフ場が完成した。

(6) そして、バブル経済によって、平成二年一一月ころから、本件ゴルフ場の会員権の売行きが低迷した上、平成三年以降、ゴルフ会員権相場も暴落するなどした。

(三)  以上の事実に基づくと、平成二年五月の段階で河川認定の指導を受けて工事に着工できず、さらに、当初予定していた防災工事と本工事を並行して行い当初の開発許可から三年半には完成させる予定ができなかったことないし右行政指導の結果などによる平成三年一二月一六日のコースレイアウトの変更などの設計変更の許可まで一年半以上の遅れが出たなどの工事の進ちょく状況、その後の天候不順及び北海道における工事期間などの自然的要因等の特殊事情、さらにはバブル経済による本件入会契約締結後の経済状況を勘案したとしても、被告は、当初開場を予定としていた平成四年夏から合理的期間である三年半程度経過した段階である平成七年末には工事を完成させ、翌春である平成八年四月には開場すべきであるから、平成八年四月が右入会契約における被告の開場義務の期限と解せられる。

3  被告らの履行の提供の有無について

(一) 甲第九号証、乙第九、一二、一四、一五、一七、四一、五二号証、乙第二九号証の一ないし三、証人大原和浩の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

平成七年六月にノースコースと呼ばれる九ホールにつき工事が終了し、同年七月二二日から右ノースコースを使用して、会員にゴルフコースや工事の進ちょく状況等を視察させる視察プレーを行い、同年一〇月にはウエストコースと呼ばれる九コースにつき工事が終了し、平成九年九月の段階で、全二七ホール中一九コースが完成し、平成九年七月ノースコース及びウエストコースの一八ホールにおいて、会員はグリーンフィーは無料でプレーが行われている。しかし、二七ホール全てが完成するのは平成一〇年九月以降となる予定である。

また、被告は、本件ゴルフ場の開場が遅延していることから、会員に被告と業務提携をした近隣のゴルフ場や栃木県内の被告系列のゴルフ場を割安に利用できるようにするという代替措置を講じた。

(二) 被告は、平成九年夏の一八ホールの利用及びクラブハウスの完成をもって、本件ゴルフ場は開場した旨主張する。

しかしながら、被告作成のパンフレットによれば、本件ゴルフ場のコースは二七ホールであることは既に認定したとおりであるから、入会契約における被告の原告らに対して負うゴルフ場の開場義務としては、二七ホールについてであり、また、証人大原和浩の証言によれば、原告らの預託金の返還期間の起算点も二七ホールの開場時であることからすれば、右一八ホールの完成等で被告の本件入会契約における本旨に従った履行の提供があるものとは認められない。

また、履行の遅滞している間の代替措置も、履行の提供と評価することはできないのみならず、右代替措置は、他のゴルフ場の割引利用に止まり、本件ゴルフ場を会員が利用するように無料でないことから、履行の提供とは到底認め難い。

4  遅滞についての不可抗力について

被告は、本件ゴルフ場の造成工事の遅延が不可抗力によるものである旨主張する。

しかしながら、被告の主張する、前記2の(二)の(2)ないし(6)の事情は、被告の開場義務の期限を判断する際の要素として勘案しているのみならず、原告ら被告間の本件入会契約締結時においては、防災工事と本工事の並行工事ができないこと、ゴルフ場開発予定地内の水路が河川として認定されたこと、河川として認定されない沢も沢埋めできない旨指導され得ること及び北海道の工事期間は限定されることなどについては認識していたことが認められる。したがって、右事情を勘案しての期限を経過した場合は、もはや、被告の責めに帰すべき事由がないとは認められない。

三  原告奈良谷及び原告永栄産業の本件会員権に関して、被告に対し譲渡担保権設定がされているか否かについて

前記争いのない事実によれば、原告奈良谷及び原告永栄産業は、本件証書を、担保として被告に差し入れており、乙第三四号証の一及び乙第三五号証の一によれば、原告奈良谷及び原告永栄産業は、第一勧銀からの本件借入れについて連帯保証している被告に対し、借入金の弁済が完了するまで本件証書を被告に差し入れ、借入金の返済完了前に本件会員権を他に譲渡したり、担保に差し入れたりしないことを約し、被告による第一勧銀への弁済には、預り保証金を充当することに異議ない旨約していることが認められる。

本件証書を預かることにより、本件会員権を他に譲渡したり、担保に差し入れたりしないことを事実上確保できるものの、さらに、右約定において、第一勧銀への被告の弁済には、預り保証金を充当することに異議ないと規定していることからすると、右会員権の預託金で回収することを予定しているものと認められ、その財産的価値をも把握することを認めているものと認められる。

よって、原告奈良谷及び原告永栄産業と被告間において、本件会員権を譲渡担保に供したものと認められる。

なお、原告奈良谷及び原告永栄産業は、原告奈良谷及び原告永栄産業と被告との間においては、会員権についての名義変更の手続がなされていないことから、本件ゴルフ場の会員権を譲渡担保に供していない旨主張するが、ゴルフ会員権について譲渡担保を設定した場合、ゴルフ場の利用権は設定者に止まり、その対抗要件も指名債権と同様に譲渡通知と解せられるから、譲渡担保権の実行に際しては、名義変更の必要が生じるものの、譲渡担保を設定したか否かとゴルフ場の名義変更の有無とは直接には関連しない。

また、原告奈良谷及び原告永栄産業は、債権の譲渡担保とは、一般に、債務者が、自己の債務の弁済を担保するために、第三債務者に対して有する債権を債権者に譲渡することをいうところ、本件においては第三債務者が存在しないから、右の譲渡担保の定義に該当しない上、債権の譲渡担保の特徴は、取立権を譲渡担保権者に委譲することと優先弁済権としてその弁済充当を認めることにあるが、本件のように第三債務者が存しない場合には、取立権及び弁済充当権は認められないから、譲渡担保権が設定されたとは解せられない旨主張する。しかしながら、ゴルフ会員権は、預託金会員組織のゴルフ会員権においてはゴルフクラブと会員間の債権的法律関係ではあるものの、それ自体財産的価値を有し、市場相場がつくものであるから、ゴルフ会員権の預託金返還義務者自身が右会員権の担保権を取得し、これを換価処分して被担保債権を回収することは可能であるから、原告奈良谷及び原告永栄産業の主張は採用できない。

四  原告らの本件入会契約解除の効力について

1  前記争いのない事実及び認定事実のとおり、原告らは、本訴状において、本件入会契約を解除しているところ、右解除の意思表示は、本訴訟係属中維持されているものと解されるから、前記認定のとおり、平成四年夏から合理的期間を経過した平成八年四月末には、原告奈良谷工務店については、解除の効力は認められ、右解除の効果により、本件入会契約に基づき支払われた入会金及び預託金の返還義務が被告に生じたものと認められる。

2  原告奈良谷及び原告永栄産業について

ゴルフ会員権を譲渡担保に供した場合、会員権中のプレー権、優先的施設利用権は依然として担保権設定者に留保されるから、入会契約に基づくゴルフ場の開場遅延により債務不履行の問題が生じると、右入会契約者において、解除権が発生することとなる。しかしながら、譲渡担保権者は、ゴルフ会員権の担保価値を把握しているので、右担保権者の同意がなければ、右担保目的の権利が消滅させ得ないとの問題が生じてくる。

しかしながら、第三者が譲渡担保権者である場合はさておき、譲渡担保権者と入会契約の債務不履行者が同一の場合についてはこれとは同一には解せられない。すなわち、入会契約において、ゴルフ場の利用権は、その根幹をなすものであり、ゴルフ場側は多額の入会金及び預託金を得ながら、合理的期間経過後もゴルフ場を開場してゴルフ会員にその利用を提供しないのみならず、預託金の起算点が開場時とされているとすれば(本件ゴルフ場についても、証人大原和浩の証言によれば、二七ホールが正式開場するときに、預託金の期間が起算されることが認められる。)、右ゴルフ場側は、開場できない間の金利をゴルフ会員に負担させ、自己の義務を先延ばししていることとなり得る。また、乙第三四号証の一及び乙第三五号証の一によれば、入会契約の預託金の支払のための銀行ローンにおいて、被告が保証することにより、借入者は担保提供もなく取引状況における信用等がなくても借入れ易くし、入会契約を締結し易くしているなどの取引実態に照らせば、まず、右預託金の借入金を返済してから、解除権を行使すべきだとする立論は、第三者が担保権者の場合にはいい得ても、そのような開場義務を果たさない債務不履行者においてまでいえるものとは認め難い。よって、被告が、原告奈良谷及び原告永栄産業に対する預託金の借入の譲渡担保権者であることから、その解除権行使を拒めるとすることは信義則上許されない。

よって、原告奈良谷及び原告永栄産業についても、原告奈良谷工務店同様、平成八年四月末には入会契約の解除権の効力が認められる。

三  原告奈良谷及び原告永栄産業の当事者適格について

なお、被告は、原告奈良谷及び原告永栄産業は、本件ゴルフ場の会員権を譲渡担保に供しているので、右会員権の管理処分権を行使できないから、当該債権の訴訟適格を有しないから右原告らの訴えは却下されるべきである旨主張する。

しかしながら、給付訴訟については、原告が被告に対する給付請求権があると主張して訴訟を提起している以上、その当事者適格が肯定されるものであり、本件において、原告による前記譲渡担保権の設定が、本件ゴルフ会員権についての原告の管理処分権にいかなる制限を与えるかは、原告の本件給付請求権の存否の問題として、本案で判断すべき事項であり、当事者適格の問題として判断すべき事項ではない。

したがって、被告らの本案前の主張は理由がない。

第四  結論

以上によれば、本訴請求は主文の限度で理由があるのでこれらを認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条ただし書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官比佐和枝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例